ニュースリリース
20周年を迎えたコミックシーモア × 京都国際マンガミュージアム学芸員
マンガの過去と未来をひも解く
20年の市場変遷と次世代トレンド予測
2025年7月17日
NTTソルマーレ株式会社
NTTソルマーレ株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:朝日利彰、以下「NTTソルマーレ」)は、日本最大級の電子コミックサービス「コミックシーモア」の20周年を契機に、京都精華大学が運営する「京都国際マンガミュージアム」学芸員の倉持佳代子氏監修のもと、マンガ市場の20年の変遷と今後のトレンド分析を行いました。
その結果、スマートフォンの普及とコロナ禍におけるライフスタイルの変化が電子コミック市場における大きな転換点となっていることがわかりました。また、コミックシーモアの読者データや売れ筋タイトルの分析から、次世代のトレンドとして「自立したヒロインが主人公のロマンス・ファンタジー」「夫婦問題・復讐ドラマ」「社会的制裁をテーマにした青年復讐もの」に注目しています。
1. コミックシーモアが歩んできた20年間のマンガ市場の変遷
コミックシーモアは、これまで読者のニーズや時代背景に合わせた多様なマンガを提供し続けてきました。その間、電子コミック市場は急速な成長を遂げ、作品のジャンルや表現手法、読まれ方にも大きな変化が起こりました。その転換点となったのは、スマートフォン時代の到来と、コロナ禍におけるライフスタイルの変化でした。それぞれの時代におけるマンガ市場の特徴と変遷について、当時の売上TOP5の作品※、京都国際マンガミュージアム学芸員・倉持佳代子氏のコメントと併せ、振り返ります。
■ガラケー時代(2004~2013年):電子コミック黎明期の人気ジャンルと新たな読書体験
電子コミックの黎明期にあたるガラケー時代には、書店では手に取りにくいタイトルやジャンルの作品が多く読まれる傾向があり、中でも、官能系やお色気系、愛憎劇を描いた作品は人気ジャンルの一つでした。
実際に当時のランキング1位は『まんがグリム童話 金瓶梅』で、最盛期の月間DL数は約30万DL(当時の月平均DL数の約100倍)を記録しています。他、人気作品のラインナップからも、携帯電話という個人の閉じた空間で読むスタイルが、それまで周囲の目を気にして購入をためらっていた層の需要を捉えたことがうかがえます。紙媒体とは売れ筋が異なるのもこの時代に顕著な傾向であり、電子コミックならではの「人目を気にせず、自分の好きなものを自由に読む」という新たな読書体験が生まれる契機となりました。この体験こそが電子コミックの爆発的な普及へと繋がり、その後電子コミック発の様々なジャンルが誕生するきっかけとなっていきます。
<京都国際マンガミュージアム 学芸員 倉持佳代子さんコメント>
“ケータイマンガ”は、主に1コマごとに切り取られ、ボタンを操作しながらページを読み進めるもので、内蔵のバイブと場面転換が連動するなど、紙媒体とは違う独自のマンガ読書体験を読者に提供しました。初期は紙ビジネスが一段落した往年の名作を中心に展開するケースも多かったですが、次第にラインナップが増えていき、ランキングが示す通り、書店では手に取りにくい、ちょっぴりエッチな作品がよく読まれていました。
2005年にマンガ雑誌の販売額が単行本の販売額を下回るなど、この時代はマンガ市場の大きな転換点です。読者の嗜好はより細分化し、紙のマンガの売れ行きと必ずしもリンクしないケータイマンガの市場は、年を追うごとに大きくなっていきました。なお、2010年は電子書籍元年とも言われますが、10~12年はガラケーからスマートフォン対応への転換期。電子コミックがさらに隆盛を極めていく夜明け前とも言える時期です。
■スマートフォンの普及(2013年~):スマートフォン時代の到来とともに、電子コミック市場も本格拡大
スマートフォンの急速な普及に伴い、電子書籍プラットフォームが日本市場に次々と参入してきた時代です。これまで限られた層に利用されていた電子書籍が、より多くのユーザーにとって身近な存在となり、電子コミック市場は一気に拡大します。無料試し読みやアプリ連動の課金モデルが浸透し、既刊作品やマイナー作品にも広く注目が集まるようになりました。
この時期から、アニメ化・映画化などメディア展開されるビッグタイトルや王道ラブストーリーが電子コミックのランキングでも上位を占めるようになり、電子コミックがより広い世代に受け入れられ始めたことがわかります。さらにこの時代には、スマートフォンでの閲覧に最適化された縦読みスタイルのマンガや、デジタル発のヒット作が次々と生まれました。
このように、スマートフォンの普及は、ジャンルや表現の幅を押し広げ、電子コミックをさらに多様で身近なメディアへと進化させました。
<京都国際マンガミュージアム 学芸員 倉持佳代子さんコメント>
スマートフォンの浸透により、各出版社がマンガアプリの配信を続々開始し、ボーンデジタルの作品も人気を博していく時代です。2014年から出版科学研究所の統計データに「デジタル」の数字が加わるようになります。その数字の伸びは顕著で、2019年には紙と電子の販売額の比率が逆転します。また、このランキングを見てわかる通り、アニメ化・ドラマ化された作品が売上に影響するので、各出版社は、そうした展開により力を入れていきました。また、デジタルによって、プロマンガ家のあり方も変化しました。例えば、デジタルの「話売り」は、これまで単行本の印税が大きな収入源となっていたマンガ家の収入形態を変化させました。また、雑誌デビューではなく、SNSなどから有名になるマンガ家もこの時代から珍しくなくなりました。
■コロナ禍・アフターコロナ(2020年~):巣ごもり消費が加速させた電子コミック市場の多様化と更なる拡大
コロナ禍以降、外出自粛やリモートワークの拡大で電子コミックの利用者層は大きく広がりました。出版の遅延やアニメの公開自粛といった影響の一方で、「鬼滅の刃」の大ヒット時には紙の重版が追いつかない中、デジタル購入も急増。コミックシーモアの売上は、コロナ禍前後で約250%伸長しました。また、巣ごもり需要で少年・児童マンガ誌の無料デジタル公開も話題となりました。
異世界転生や中世風ロマンス・ファンタジーの多い「なろう系」など、デジタル発の作品が上位にランクインし始めたのもこの時期です。中でも『鬼の花嫁』(電子コミック大賞2023の大賞受賞作品)のように、受け身のヒロインが救われる“シンデレラストーリー”が人気を集めました。このようなロマンス・ファンタジー作品読者の半数以上は40代以上で、80〜90年代の「少女漫画黄金期」に青春を過ごし、一時は紙のマンガから離れていた世代が、スマホで気軽に読めるようになったことで、電子コミックを通じたマンガへの再接続が進みました。
またこの時期には、SNSやアプリ上のコメント機能の活用による、編集者と読者、読者同士の交流が活発となり、マンガ好きコミュニティが活性化。多様なジャンルが広い層に受け入れられ、市場の成長を後押ししました。
<京都国際マンガミュージアム 学芸員 倉持佳代子さんコメント>
2020年は、コロナの巣ごもり需要で一気に売上をのばし、紙と電子をあわせたマンガ市場が、ピークだった1995年の売上を更新しました。以降、その数字は更新され続けています。また、様々なメディア展開がマンガの売上に影響することは変わっていませんが、動画サブスクリプションが一般に浸透したことにより、アニメ・ドラマの配信形態は変化しています。そして、今回のランキングにも大きく影響している異世界ものですが、2020年以降も衰え知らず。学園を舞台にした物語が等身大ではなくなった年齢層から、主に人気を集めるジャンルですが、ここ数年は女性に向けた異世界ものの躍進がめざましいです。また、2020年以降は、これまでマンガの編集部を持たなかった出版社がデジタルでマンガ部門に参入し始め、注目作を多数排出しています。
※ランキングデータ抽出定義
・ガラケー時代:2004年8月~2013年12月
・スマートフォンの普及:2013年1月~2019年12月
・コロナ禍・アフターコロナ:2020年1月~2024年12月
・当該期間の売上順TOP5タイトル
2. 読者データと専門家視点から読み解く“未来のトレンド”
20年にわたり電子コミックサービスを運営してきた「コミックシーモア」は、膨大な読者行動データやユーザーレビューもとに、現在注目を集めているジャンルや、今後のトレンドの兆しを分析し、以下の3ジャンルに注目しています。
■コミックシーモアの読者データから読み解くトレンドの兆し
①自立ヒロインが輝く「ロマンス・ファンタジー」
2023年頃から令嬢系や和風モノなど様々なバリエーションで人気を博している「ロマンス・ファンタジー」ですが、近年は『おひとり様には慣れましたので。婚約者放置中!』『ベル・プペーのスパダリ婚約~「好みじゃない」と言われた人形姫、我慢をやめたら皇子がデレデレになった。実に愛い!~(コミック)』など、自立したヒロインが自ら人生を切り開く作品が台頭。これらの作品は30代以下の読者が半数以上を占めており、明確なトレンドの変化が見られます。自立した女性像の台頭は、現代の価値観の反映ともいえます。「かわいそうなヒロイン=守られたい存在」への共感よりも、「自分の意志で未来を選ぶヒロイン」に憧れや目標を重ねる読者が増加していることが推察されます。近年は、ヒロインのキャリア・スキル・再出発などを前面に押し出した作品タイトルも増えており、読者が自己投影しやすいヒロイン像へとアップデートが進んでいます。
作品例:『おひとり様には慣れましたので。婚約者放置中!』『【単話】拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます』『ベル・プペーのスパダリ婚約~「好みじゃない」と言われた人形姫、我慢をやめたら皇子がデレデレになった。実に愛い!~(コミック)』
②共感が熱い「夫婦問題・復讐ドラマ」
夫への不満やモラハラ、浮気といった家庭内の問題を描く“夫婦問題”系作品は、現代女性のリアルな悩みに寄り添うジャンルとして支持を集めています。作品内で女性主人公が我慢を重ねた末に離婚や復讐、自己実現へと踏み出す姿に、多くの読者が共感し、応援しながら「スカッと」する爽快感を得ています。たとえば、SNS上でも「こんな展開を待ってた!」「読んでいて胸がすく」といった反響が多く、同ジャンルは漫画のみならずテレビドラマでも注目されています。フィクションを通じて日常の鬱屈を解消したいというニーズが反映されており、今後も女性を中心に拡大が見込まれるトレンドです。
作品例:『うちの夫、やばくないですか?』『60点の夫婦でいいのに』
③現代のスカッと系「社会的制裁をテーマにした青年復讐もの」
過去のいじめや職場でのパワハラ、裏切りなどに対して、主人公がSNSの告発や内部告発、巧みな情報操作を用いて加害者に社会的制裁を加えるなど、そんな「スマート復讐系」の作品が、近年注目を集めています。
かつての復讐ジャンルは暴力や流血といった過激な描写を含むものが多く、主に男性読者の支持を得ていましたが、近年は「言葉」や「証拠」で相手を追い詰めるスタイルが台頭。こうしたスマートで現実味のある手法が、共感と爽快感を両立させ、男性読者のみならず、多くの女性読者の心をつかんでいます。「自分では言えないけれど、こうやって仕返しできたら…」という願望を代弁してくれるような構成は、SNS時代ならではの感情の代償装置とも言え、今後も人気ジャンルとして拡大が予想されます。
作品例:『社長令嬢復讐日記』『壊職代行』
<京都国際マンガミュージアム 学芸員 倉持佳代子さんコメント>
夫婦問題をテーマにした作品、復讐系は世相を反映していますね。今年も流行しそうな予感です。そして、異世界ものジャンルから派生し、躍進中の「令嬢」ものの勢いも止まりません。定型に倣いつつ、バリエーションを広げるこの題材は、「大人の少女マンガ」として、現代らしい価値観を取り入れながら、30代以降の女性を中心にさらに盛り上がりそうな気がしています。
次の20年に向けたマンガ界の動きで気になるのは、やはりAIの参入・浸透です。作品作りの現場にすでに変化をもたらしています。また、世界各国のマンガ家・出版社の動きも今後、キーになるかなと。京都国際マンガミュージアムに来る海外のお客さんの数は2024年に最高値を記録しましたが、海外からのマンガ需要の高まりを肌で実感しています。これまでノーマークだった国から優秀なマンガ家も登場し始めています。翻訳ツールの発展で言語の垣根は徐々になくなっていくでしょうし、多様な表現とそこに描かれる生き方・価値観に触れる機会はますます増えるのではと思います。こうした動きは、もちろん心配なこともありますが、この20年を振り返っても、マンガがいかに常に読者の姿と社会を反映しながら柔らかく進化したがよくわかるので、マンガの未来は明るいはずです。
3. NTTソルマーレ株式会社について
NTTソルマーレは、「お客様に新鮮な驚きと多くの感動を提供し、豊かな社会づくりに貢献する」ことを目標として、国内最大級の総合電子書籍ストアである「コミックシーモア」の運営、オリジナルブランド「シーモアコミックス」によるコミック制作、全米最大級の電子マンガ配信ストア「MangaPlaza」の運営、人気モバイルゲーム「Obey Me!シリーズ」などを展開しています。
公式サイト:https://www.nttsolmare.com/
事業紹介サイト:https://www.nttsolmare.com/about/
電子書籍事業
- 国内最大級の総合電子書籍ストア「コミックシーモア」の運営
公式サイト :
https://www.cmoa.jp/ - デジタル出版を牽引するオリジナルブランド「シーモアコミックス」の展開
公式サイト :
https://www.cmoa.jp/cmoacomics/ - コミックシーモアCM「マンガ多すぎ!業界最大級!!」
公式サイト :
https://www.cmoa.jp/cm/ - 全米最大級の電子マンガ配信ストア「MangaPlaza」の運営
公式サイト :
https://mangaplaza.com/
4.京都国際マンガミュージアムについて
2026年に開館20周年を迎える京都国際マンガミュージアムは、京都市と、日本で初めて、そして唯一のマンガ学部を設置している京都精華大学による共同事業です。世界的にも注目されるマンガ資料の収集・保管・公開に加え、マンガ文化に関する調査研究、さらにそれらに基づいた展示やイベントの開催など、多角的な活動を行っています
京都国際マンガミュージアム サイト:https://kyotomm.jp
本件に関するお問い合わせ先
NTTソルマーレPR事務局(㈱イニシャル内)
佐々木・備前・菱沼・松本